アイヌに魅せられたジュエリーデザイナーがつくるみまもりすず

銀板を球状に打ち出して、そこにアイヌ文様を刻印したシルバーアクセサリー。
ペンダントトップとしても、またキーホルダーとしても、身につけることができます。

この『みまもりすず』は、シルバージュエリーのデザイナーとして、 阿寒湖を拠点に活動するAgue(アゲ)さんの作品。

元々は東京で暮らしていたAgueさん。 1999年から阿寒湖に通い始め、ついには6年前、ここに拠点を移しました。 アイヌの里に根を下ろすまでにAgueさんを魅了したものは、いったい何なのか? 阿寒湖温泉にあるアトリエで、お話を伺いました。

アイヌの木彫家から受けた衝撃

1994年頃から、何故か惹かれて、毎年北海道に遊びに来ていたんですけど、 1999年に、アイヌに興味を持っていたということもあり、初めて阿寒湖を訪れました。

そこで、藤戸竹喜さん(著名なアイヌの木彫家)の木彫りの熊と出会って、衝撃を受けて。

「いつか自分も、こんなもの作ってみたい!」と思って、 一年間色んなものを作って、また阿寒湖を訪れて、 藤戸竹喜さんの作ったものを見て、自分にがっかりして帰る…っていうのを、 ずっと続けていたんです。

そういうことをしている中で、 阿寒湖には他にも、すごい作家さんがゴロゴロしていたし、面白くて。 そこから毎年訪れて、ついには越して来ちゃいました。

アイヌの独特の信仰が、形に滲み出す

藤戸竹喜さんに挑むような形で、ずっと作品を作り続けていたら、 「藤戸さんは、別に現実に近づけようとしていないな」ということが分かったんです。

デフォルメしていたんですよね。 藤戸さんが作る怒っている熊は、毛先まで怒っているし、 子どもと一緒に遊んでいる熊は、すごく優しい気持ちで、 それが毛先にまで漲っている感じがするんですよね。

そういう経験を繰り返すうちに、だんだん、藤戸さんの作品にある背景というか、 アイヌの独特の信仰だったりとか、そういうものが形に滲み出てきているんだな、 ということが理解できてきて。

僕はアイヌではないし、意識的に表現しようともしていないですけど、 この土地で暮らす中で、自分が作るものにも、 そういう何かが宿ってくれたら嬉しいな、とは思っています。

使う人のことを想って、丸ごとかけて作る

藤戸竹喜さんたちの作品って、作る人の自己顕示で作っているのではないんですよね。 使う人のことを想って、作っている。 その人のことを想って、丸ごとかけて作っているような。 たぶん僕は、そこにグッと来ているんだと思います。

アイヌの文様も同じく、あくまでも「個人的なもの」ですよね。 文様を掘るときに、その人が、誰に、どんな想いを込めて施したかっていうのが、 文様に込められた意味なんですよね。

娘のために作った『みまもりすず』

この『みまもりすず』は、 自分の娘が小学校に上がるときに、彼女に作ったのが最初なんですよ。

小学校に行くとき、交通量が多い国道を渡る場所があって。 その頃、鈴が好きだったし、音が出るし。 なんか周りの人に気づいてもらえたらいいよね、と。 今はもう、中学3年生です。

オーダーメイドではないので、 使ってくれる方の具体的な顔は見えないけれど、 使ってくれる人の力になれるように、これからも丁寧に作っていきます。

アイヌ文様には、魔除けの意味もあるんですか?

魔除けとして文様を施すことは、よくあるよ。 昔から、着物の袖口とか首周りとか、魔が入りやすい場所にあしらったり、 木の器に文様を彫って、食べ物に悪さをしない(腐らない)ように、とかね。

あと、店の透明なガラスサッシに、子どもが間違えて突っ込んで来ないように、 テープをアイヌ文様に切って貼ったりもしたよ。

万が一割れても、
飛び散らないからね(笑)。